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第47巻 オレたち花のバブル組 池井戸潤著 文春文庫刊(または 溶ける 井川意高著 双葉社刊)

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「最南端と最西端と最東端に行って、最北端に行かないなんて、世界のバランスが狂ってしまうわ。だから、あなたはそこへ行かなくてはいけないのよ。」

呆然としている僕(まこっちゃん)に綺麗な耳をしたCAが言った。

「そしてまた、スイングを巡る冒険がはじまるのよ。」


目が覚めるとタイのゴルフ場でした。いや、これは夢か。きっと夢をみているに違いない。だって僕は世界を救うために日本最北端のゴルフ場にいるはずだ。きっとこれは夢だから、目覚めれば稚内のノースバレーカントリークラブにいるはずだ。そう思って目を瞑りました。

「ひとりぃ、にっせんえんバーツね。」

カタコトの日本語が聞こえて、こわごわ目を開けるとゴルフ場のフロントとおぼしき掛りの女性が、こちらを見ています。「二千円バーツ?」ととまどっていると、「いつまでも寝てんじゃねぇよ。」と言うなり羊男に化けたゴルフ仲間が僕の財布から、見慣れないお札を掴むとフロントの女性に渡しました。レシートをもらって振り返るなり、彼が叫びます。

「さぁ!ラムルッカカントリークラブで倍返しだっ!」


ご無沙汰しております。まこっちゃんです。月の下旬に更新をするとすぐ翌月になってしまい、「おらおら、今月更新してないのは、どいつだ。おらんだ。いぎりすだ。おめぇら、加賀屋さんの大恩を仇で返そうってぇのか。おらおら、さっさと更新しろ。」とちゃっかり月頭に更新した親方に言われているような気がするのです。そこで、本来なら1週で済む原稿を薄く延ばして2週分にして、月末と月初に更新すれば、という姑息な手段を考えて、呟きます。「倍返しだっ!」


オレたち花のバブル組

今回ご紹介しますのは、「オレたち花のバブル組」です。TBSの大ヒットドラマ「半沢直樹」の原作で、前回ご紹介しました「オレたちバブル入行組」の続編で、この後「ロスジェネの逆襲」と続きます。作者の池井戸潤氏とは同じコースのメンバー同士。(といっても面識は無いのですが)いったい、どこにゴルフが登場するのか?という疑問も湧きますが、前回からの流れがあるので、とにかく「倍返しだっ!」


なんだか、ぼんやりしているのは寝不足のせいなのか?湿気のある暑さのせいなのか?それともやっぱり夢の中だからなのか?

気がつくとずらりと並んだ二人乗りゴルフカートの前にいました。

「どれにする?」

すっかり羊男と化した仲間が言います。

ゴルフカートの後ろに積んだレンタルクラブを、どのクラブセットを選ぶかで、その日のスコアが決まりそうです。つらつらとクラブセットを眺め、「これにする。」と唯一ユーティリティの入ったセットにしました。

「このこの!一番かわいい子選びやがって。この助平!」

と羊男が僕の肩をつつきます。こいつ何言ってんだ?ユーティリティが可愛いのか?とムッとしておりますと、

「サワディカー。」と後ろから声を掛けられました。

ダイアン

振り返りますとピンクの制服を着たちょいと仲間由紀恵に似た若いキャディさん。日に焼けないように、わざと指先まで隠れるダブダブの制服を着ているのが、男モノのワイシャツを着て、「わぁー、おっきぃ。」とベッドではしゃぐ女を妄想させます。

「あ、サ、サワディカー。」と返すと、ぽっと、はにかんだ様に笑います。

「おい!助平!ぼっとしてると置いてくぞ!」羊男がカートに乗り込み走りだします。

どうやら、一人に一人づつキャディさんがつくようです。4人一組だと、カートが4台でキャディさんも4人。一組で8人の大部隊です。

あわてて乗り込んで後を追い、ラウンドスタートです。

仲間由紀恵似の美女とふたりきりのカートでドライブです。ラウンド中、メンバー同士が口を聞くのは、ティーグラウンドとグリーン上くらい。後は美女が運転するカートでふたりきり。やはり、ここは夢の中か?

「わ、ワッチャネーム?」

「ダイアン。ユー?」

「まこっちゃん。ハウオールド?」

「ナインティーン。ユー?」

「ミーツー。ナインティーン。」と言うと、破顔一笑。まるで、花の様な笑顔です。

メンバーに池井戸先生も名を連ねるわがホームコースのキャディさんは、どちらかというと私の母親の年齢の方が近い割にお元気な方が多く、私はいつも甘えながらゴルフをしておりますが、ここでは、違う甘えが出てしまいそうになります。

19歳というと我が娘と同じ年。家では娘との会話に苦労するのに、なぜか、言葉も通じないのにダイアンとの会話が弾みます。

「ダイアン、タイ語でかわいいは?」

「ナーラック。」

「ダイアン!ナーラック!」

ゴルフどころではありません。

なにしろマンツーマンですから、スコアカードもキャディさんが書きます。自分でカードに書こうとするとダイアンが悲しそうにするので、自分で書いてはいけません。日本ではバンカー均しも、ピンフラッグもキャディさんに持たせずにメンバーがやることが当たり前ですが、ここでは、「私シゴトナイ。私イラナイノカ?」ということになって悲しそうな顔をされます。各ホール終わるたびに、キャディさん同士で、スコアを確認しています

早速、指で数字を作って、ダイアンに数字を教わります。

「1は?」

「ヌン。」

「2は?」

「ソーン」

「3は?」

「サ―ム」

と言う調子で、「4がシィー、5がハー、6がホック、7がチェッ、8がペッ、9がガォ。10になるとシィップ」です。

ティーグラウンドで「ダイアン、ここ.パー、シィー(PAR4)?」

ホールアウトすると、「シィー(4)」

「まこっちゃん、ナイスパー!」

なんて会話になります。

そのうち、全員タイ語でスコアを報告しはじめ、

「シィー(4)」

「ハー(5)」

「ハー(5)!」

と中学一年生の英語授業の様な有り様です。

なんだか夢心地でゴルフをしているとボールが大きくフックして、池の方へ。池の近くでボールを探していると、突然ダイアンが持っていたクラブで地面を叩きます。すると数メートル離れた水面で水がバシャッと撥ねたかと思うと、流木の様なものがスーっと離れて行きます。

何?何、今の?

「アーニ―」

「?」アーニ―って、アーノルド・パーマーはこんなところで泳いでいないぞ。それともエルスの方か?

「アーニ―。クロコダイル。」

「!」

アーニ―じゃなくて、ワーニー。ワニだろ鰐。野良鰐か。しかし、柵が無いと、ちとびびるな。鰐も短い距離だと、結構早く走るらしいし。幸いボールは見つかったのですが、池を背にアドレスすると、いつ鰐が忍び寄るかと思うと気になります。その姿を見ていたダイアンが、突然、後ろの池を指さして「アニ!」と叫ぶので、飛び上がるように、池の傍から逃げ出すと、その姿を見て、ダイアンが他のキャディと一緒に大笑いしてます。

「ウソウソ。」

「まこっちゃん、ジャンプ!」

と僕の慌てプリを見てけらけら笑ってます。

こいつらめ。楽しいじゃないか。

この後も、フェアウェイを横切る体長1メートルはあろうかという大トカゲをカートで追いかけまわしたり、豊かな自然の中で、若いキャディさんたちのはしゃぎっぷりについていけなくなるころには18ホール終了。

チップを渡すと、「コップンカー!」とはにかんだ笑顔を見せると、カートに乗って去っていきます。

おーい。この後、ご飯いっしょにいかないかい?と思っていると、

「いつまで、物欲しそうな顔して見てるんだ!」

羊男が現れて、車に乗せられます。車に乗るとまた強烈な眠気が襲ってきます。昨日、眠れなかったし、朝から暑い日差しの中でゴルフしたからなぁ。と思う間もなく、眠りに落ちます。いや、もともと寝ていて夢の中でラウンドしていたのか?ここはどこだっけ?
タイ?そもそも、僕はなんでタイにいるんだ?そう言えば、空港を降りた時に暑いなと思ったんだ。それにイミグレ通った時に、なんでイミグレ通るのかな?と思ったんだ。あれ?僕はどこに行くはずだったんだっけ?イミグレ通らないとすると国内?どこだっけ?何しに行くんだっけ?

ベールのような薄靄の向こう側で、悲しそうに首を振りながらこちらを見ている女性の姿が。あれ?誰だっけ?ダイアン?


目が覚めると、大きな箱のような部屋で羊男がカラオケを歌っていました。

ソファーから起き上がった僕に髪の長い美女たちが、知らない国の言葉を発しながら、左から水割りのグラスを、右から果物を差し出してきます。

「君たちは誰?」

「シィー」水割りが答えます。

「ハー」果物が答えます。

「シィーとハー?4と5って名前なの?」

「おぉ!やっと起きたか?タイ・マッサージ行っても寝てるし、飯食ってる最中も寝てるし、酒飲んでても寝てるし、どんだけ寝るんだ?ツエツエ蠅に刺されたか?」

カラオケが終わった羊男がハー(果物)を押しのけて僕の隣に腰をおろします。

「よーし!まこっちゃんが起きたから、みんなで乾杯だ。ほら、シィーもハーも、ヌンもサ―ムも、チャイヨー!」

「チャイヨー!」

シィーに渡されたグラスを飲み干すと、目の前にまた暗闇がおりてきて、僕を包みます。あれ?また寝ちゃうのかな?でも、僕は急がなくちゃいけないんだけど。あれ?どこに急ぐんだっけ?考えるより先に暗闇がすべてを消していきます。まぁいいや。明日ラウンドすれば全て上手くいくよ。


目が覚めるとタクシーの周りにクリーム色の制服を着たキャディさんが群がっていました。その数、10名以上。あれ?今日はピンクじゃないんだ。と思っていると、

「ほら!着いたぞ!いつまで寝てるんだ!今日はタナシティゴルフ&カントリークラブで倍返しだっ!」


リン

「ワッチャネーム?」

「リン。ユー?」

「まこっちゃん。リン、ハウオールド?」

「トゥエニィ。まこっちゃん?」

「ミートゥー。トゥエニィ。リン。ナーラック!」

あれ?どこかで同じようなシーンが?どこだっけ?ナーラックってタイ語か?なんで、僕はタイ語を話してるんだ?三浦理恵子に似たリンといっしょに二人乗りのカートで緑のじゅうたんの上をドライブします。ぼーっとしているのは、昨晩のお酒のせいか、寝不足のせいなのか?それともこのまとわりつく暑さのせいなのか?

「リン、ここ、パー、ハー(5)?」

「まこっちゃん、ノー!パー、シィー(4)!」

「OK!サ―ム(3)でバーディね!」

調子に乗って本当にバーディを取ると、リンが大喜び。羊男のキャディをしているキティが僕ににっこりほほ笑むと、リンとキティが何かごにょごにょ話をしてます。リンがちょっとふくれてカートに戻ってきたので、

「リン。ワッツハップン?」

「キティがね。キャディチェンジしようって。まこっちゃん、ユーワナチェンジ?」

おいおい。おいらのせいで喧嘩はやめてくれよ。なんだか、ほわほわと夢心地でラウンド終了し、チップを渡すとさっきまでの良い雰囲気もどこへやら、さっさとカートに乗って去っていきます。

おーい。この後、飯でも。。。あれ?

「あいつら、俺たちのスコアで握ってやがったな。」

いつのまにか、後ろに立っていた羊男が言います。えー?ということは、バーディ獲ったところで、キャディチェンジの話が出たのは、僕がかっこいいからじゃなくて、単なる握り上で有利になるから?

「さぁ、飯だ!マッサージだ!カラオケだ!」

羊男の声が、遠くで聞こえます。あぁ、また僕は眠ってしまうのか?がっかりしたのか、ほっとしたのか、また綿にくるまれたように眠りの世界に引きずり込まれていきます。


目が覚めると、大きな箱のような部屋で羊男がカラオケをしています。 あぁ、やっぱり、僕は急いでいるのに。起き上がる僕に左の美女が水割りを、右の美女が果物を差し出します。急いでいるのにまたここに戻ってきてしまう。早く行いかなくてはいけないのに、またここに戻ってきてしまう。どうしてなんだろう?

「チャイヨー!」

シィーが言います。

「チャイヨー!」

ハーが言います。

シィーから渡されたグラスを空けると、また暗闇が僕を包んでいきます。もう、このまま溶けて行ってしまうかもしれない。


目が覚めると、自宅のリビングにいました。
「出張お疲れ様。」
妻に言われて、うーん。本当に疲れたよ。タイは暑くてね。これ、お土産だよ。とジムトンプソンのシルクのスカーフを渡します。
「あら、出張なのにお土産買ってくるなんて、珍しいわね。」
そうかい?いつも買ってくるだろう?妻の鋭さに冷や汗が流れます。汗を拭くハンカチを探しましたが、ポケットが空だったので、しかたなく手で汗を拭うと、
「汗なんかかいて、怪しいわね。そう言えば、加賀屋さんから何か届いていたわよ。」
見ると、テーブルに見慣れたA4サイズの青い封筒が。手にもつとなんだか中身がふわふわしている。なんだろう?Kカントリークラブの会員権でも送ってくれたのかな?でも、中が分かれている感触だから、書類じゃないし。

開けてみると、中身は札束が5束と手紙が1通。
「ホールインワンしちゃったから、記念にこれあげる。少ないけれどKカントリークラブを買う足しにしてくれや。フォッフォッフォッ。」

このバルタン星人のような笑い声と太っ腹ぶりは、まさしくM土の大親分。あぁ、これだけの金があれば、しばらくタイで溶けていられる。ダイアンとリンとキティとシィーとハーと。。。


「最南端と最西端と最東端に行って、最北端に行かないなんて、世界のバランスが狂ってしまうわ。だから、あなたはそこへ行かなくてはいけないのよ。」

耳の綺麗なCAが僕の耳元で囁きます。

「わかっているよ。だから、今、飛行機に乗って急いでいるじゃないか。そんなに、耳元に息を吹きかけられたら、僕の下半身のバランスがおかしくなっちゃうよ。」

「急いで。早くバランスを取り戻さないと大変なことになるわ。」CAは私をゆさぶって訴えます。「わかっているよ。でもM土の親方からもらった札束で、少しだけタイで。」


「お客様ッ!お客様ッ!」

「札束が、ハー(5)、、、」

「札束?お客様!お座席を元の位置にお戻しください。まもなく着陸です。」

目が覚めると、そこは飛行機の中でした。 口から垂れる涎を手の甲で拭いながら起き上る僕に、冷たい一瞥をくれるとCAは去っていきました。なんだ?また夢か?この飛行機も夢なのか?目を瞑っていると、ふわりふわりと飛行機は降下していき、やがてお尻が硬いコンクリートの感触で着陸を感じます。


目を開けると、自宅のリビングに座っていました。

「出張お疲れ様。」 妻に言われて、うーん。本当に疲れたよ。タイは暑くてね。でも、来週は、稚内に出張するから、今度は寒いな。」と言いながら、PCを立ち上げてノースバレーカントリークラブのホームページをみると、

「本年の営業は終了致しました。ご愛顧誠にありがとうございました。 来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。2013.11.5」

「急いでって、私が言ったのに、あなたがタイなんかで溶けてるから、世界のバランスが狂ってしまったのよ。」妻が冷たく言い放ちます。

何を言っているんだ?世界のバランス?君はいったい?体中の毛穴から冷や汗が出ました。汗を拭うハンカチを探しましたが、ポケットは空。何か汗を拭うもの、できればハンカチよりもタオルが欲しいくらいだと探していると、妻の姿が、CAになって、ダイアンになって、リンになって、キティになって、シィーになって、ハーになって、また妻の姿に戻ると言いました。

「知らないわ。そんなことより加賀屋さんから何か届いていたわよ。」

見ると、テーブルに見慣れたA4サイズの青い封筒が。手にもつとなんだか中身がふわふわしている。なんだろう?Kカントリークラブの会員権でも送ってくれたのかな?でも、中が分かれている感触だから、書類じゃないし。そうだ!思い出した!札束がハー(5)!

開けてみると、タオルが一本。

「ホールインワン記念。M土盛蔵」