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王国のゴルフ マイケル・マーフィ著 山本光伸訳 春秋社刊

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第141回全英オープン(ロイヤルリザムアンドセントアンズ)は、皆さんご覧になりましたか?首位を走るA・スコットが15番ホールから4連続ボギー。1打差でアーニ―・エルスに敗れる。という凄まじい大会でした。テレビで見ていても、茫々たるラフ。深いポットバンカー。特に、タイガー・ウッズですら、まともにアドレスができないバンカーショットには、皆さんも衝撃を受けられたのではないでしょうか?ロイヤルリザムは、リバプールやマンチェスターから車で1時間。スコットランドではなく、イングランドにあるゴルフコースです。スコットランド贔屓の私としては、「ふん。あんな街中の箱庭コース。スコットランドの本物リンクスだったら、もっと厳しいぜ。」とわけのわからない独り言を呟きながら観ておりました。きっと、この漫遊記を読まれた方の中には、テレビで全英オープンを観ながら、「いつか、俺も挑戦してやるぜ。」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

まこっちゃんと一緒にリンクスに挑戦し、8.5ラウンドで4ダースのロストボールを記録し、散々に打ちのめされた友人は、朝、ロイヤルアバディーンでゴルフをした後の午後、「ロストボールにならないゴルフ場で、のんびりプレーしたい。」と言い残して、アバディーン空港から悄然と帰国して行きました。

彼を空港で見送った後、私は一人で車を走らせて、アバディーンからセントアンドリュースへ戻ります。スコットランドでは、セントアンドリュースがあるエリアを「Kingdom of Fife」(ファイフ王国)と表記します。遥か昔、ここに「フィブ(Fib)王国」というピクト人の王国のひとつがあったとされていて、今も「Kingdom of Fife(ファイフ王国)」と呼ばれているのです。かつてローマ帝国は、全ヨーロッパを征服し、ドーバー海峡をも渡って、イングランドを属州として治めますが、スコットランド(当時はカレドニア)は、ローマ帝国の勢力の外でした。ローマ帝国およびキリスト教中心の歴史では、スコットランドは「勢力の及ばない野蛮人の住む土地」ですが、近年の研究で、ピクト人は、石器、青銅器、鉄器時代から高度な文明を持った人たちだということがわかってきました。今も誇り高きスコットランドの人たちは、イングランド相手に独立戦争を戦い、独自の議会を持ち、さらには「スコットランドポンド」(価値は英ポンドと同じ)の紙幣まで発行しています。

エジンバラのパブで呑んでいた時、地元の常連と思われる赤ら顔の親爺に話しかけられて、乾杯することになり、「チアーズ(Cheers)!」と言うと、親爺が、「ここでは、「チアーズ」ではなく「スランジバー!」だ。」と言います。エールのグラスを片手に「スランジバー!」と声を放つと、周りの親爺たちも大喜びで「スランジバー!」と返します。ところが、近くにいた身なりの良い紳士たちは、顔をしかめています。赤い顔でご機嫌の親爺たちに、「なぜあの人たちは顔をしかめているのか?」と聞くと、「あいつらは、たぶんロンドンから来たイングリッシュだ。」と言います。「おまえらもイングリッシュじゃないのか?」と聞くと、「NO!俺たちはスコティッシュだ!スランジバー!は、『イングランドくそくらえ!』って意味だ。」と言って大笑いしました。(これを書くにあたって、調べてみましたが、スランジバーは、『Slangevar、Slangiva, Slaintheva』と表記され、スコットランドでの乾杯の言葉、意味は『Good health(健康を!)』」だそうです。イングランドくそったれ!みたいな意味は書いてないので、からかわれたのでしょうか?そうなると、あの時のしかめっ面は謎のままです。)

王国のゴルフ マイケル・マーフィ著 山本光伸訳 春秋社刊

今回とりあげます「王国のゴルフ(GOLF IN THE KINGDOM)」は、この誇り高き「(ファイフ」王国でのゴルフ」という意味と、ゴルファーの理想郷としての王国。の2重の意味を持たせているわけです。

1972年に書かれた本で、全米でベストセラーを記録しました。内容は、スコットランドの北海沿岸に広がるゴルフ場「バーニング・ブッシュ」で起きたゴルフのプレイから始まるストーリーです。あるアメリカ人と「シーヴァス・アイアンズ」というスコットランド人のプロゴルファーが「バーニング・ブッシュ」を昼と夜、一緒に1ラウンドする第1部と、様々な出来事を材料に「シーヴァス・アイアンズ」が書いたメモを写したとする第2部の2部建てになっています。

中身は、正直言って、何度読んでも理解不能です。

ひょっとして、哲学者には理解できるのかもしれませんが、ハリー・ポッターがゴルフをしながら、坐禅について語る。というのが、この本について、私の受けた印象です。「全ての世界は、自らの内なる宇宙につながっているのだから、自らの心は、自らの打つボールとクラブにつながっている。さらには、そのボールが転がる先のホールすら、自らの心の中にある。」みたいなことが、延々と繰り広げられるわけです。わけわからないでしょ?

しかしながら、世界中にこの本のファンがいて、「シーヴァスアイアンズソサエティ」なるゴルフ会すら存在しています。興味のある方は、是非ホームページをご覧になってみてください。(http://www.shivas.org/)日本からでもメンバーになれます。年会費は、115ドル。おしゃれなネームプレートをもらえるだけでなく、年に何回あるイベント=アイルランドツアーやコンペなどのゴルフに参加できます。

ひとり旅になった私は、アバディーンからセントアンドリュースに戻る途中のモントローズ(Montrose)でプレイすることにしました。

Montrose

ここ、モントローズは、1562年にここでゴルフをしていたという文献が残る名リンクスです。人口1000人くらいの小さな街の10軒ほどの商店が並ぶ小さな中心街から海に向かって500メートルほどで、荒涼としたリンクスが広がり、ぽつぽつと立つフラッグがゴルフ場であることを示しています。ゴルフ場の入り口には、なんと「450周年記念」の垂れ幕が。これを見ますと、「開場50年」とか「昭和ひとけた創設の名門」とか、ちゃんちゃらおかしいですね。顔を洗って出直して来い。って感じです。

ひとりでカートを曳いてのプレイです。6544y、Par71。OUTは、Par3が一つ。Par5が一つ。INにPar3が二つ、Par5が一つ。クラブハウスから海辺の砂丘に向かって打ち上げていく1番。そこから海沿いに、2番から7番をプレイし、8番で折り返し、10番から13番は、内陸に向かって行き14番15番と海方向へ戻ります。16番17番と2番3番の陸よりにコースを取り、18番は海沿いの砂丘からクラブハウスに向かって打ち下ろして行くホールになります。コースルートは「山」の字の右がわの出っ張りがない感じ。下が海です。左側の出っ張りの上がクラブハウスです。わかりますか?ロイヤルアバディーンほど隅々まで行きとどいてはいませんが、ティーからグリーンまで見渡せるまっすぐなホールが多いのが特徴です。木は一本もありませんが、例えて言えば総武CC総武Cみたいな感じです。「とにかく真っ直ぐ打って来い!」って感じ。

Montrose

出だし1番から3番まで連続3パット。しかもロストが2つ。グリーンが速い。観光用のゴルフコースとは違って、メンバーが大切にしている感じ。さらに一人でのラウンドになって、ボールの行き先を自分でしっかり見ていないと、誰も助けてくれません。ロストの可能性があります。気合いを入れ直して、4番350yPar4、5番292yPar4、6番479yPar5と3連続パーを拾います。ほっとした7番でボールが連続してロスト。バンカーでも苦労して、なんと10。とほほ。8番、9番はボギーで、アウトは50。INもボギー、パー、ボギー、パーと来た14番で、パーオンして、ここでバーディ!と思ったら、ボールはカップの左をすーっとすり抜け、返しもまた外し、またボギーか。と思って打ったパットがくるり。まさかの4パットでダボ。がっくりきて、残りホールはボギー、ダボ、ダボ、ボギーで45。ショットは良くなってきているが、パットの調子がおかしいです。

1ラウンドして要した時間は2時間10分。歩くだけなら、1時間で5〜6kmくらい歩けますから、1ラウンドで10キロ歩いたとして2時間。1打に要する時間が10秒だとすると100打で1000秒=17分弱。リンクスコースはホールインターバルが短いので、こんなもんでしょうか。

ラウンド終了して、クラブハウスに行きますが、ここでも「ダイヤモンドジュビリー」の影響で、キッチンはお休み。もっとも、まだ5時前なので、このまま本日の宿泊地であるセントアンドリュースに向かうことにしました。ひとりで晩御飯を食いっぱぐれる恐怖と闘いながらのドライブですが、良い場所を思いつきました。ここなら絶対開いてる筈だし、車も止められる。どこだと思います?そう。セントアンドリュースのオールドコースのクラブハウス。セントアンドリュースはパブリックコースですから、コース内のレストランでは、プレイヤー以外が入って食べても咎められません。しかも、おいしいし値段も高くない。オールドコースには、ひとりでゴルフをしに来る人が結構いるので、ひとりでご飯を食べていても違和感もありません。

McIntosh Halls of  St Andrews Graduate school

今日の宿泊場所は、セントアンドリュース大学の学生寮です。といっても、学生に交じって宿泊するわけではありません。6月〜9月は、夏休みですから、学生たちは家に帰ります。その間、学生寮はホテルとして営業しているわけです。学生寮といっても、英国王子も学ぶ名門大学の寮ですから設備もしっかりしており、個室です。(トイレ、風呂は共同)窓からはオールドコースホテルと17番グリーンが望め、なかなか落ち着いたところです。料金は、一般のホテルの約半額。ゴルフ以外に愉しみを求めなければ十二分です。オールドコースの1場ティーまで、徒歩1分の距離です。

ところで、1週間以上の旅行を共にすると、たとえ夫婦であっても、たいていどこかで二人の仲が険悪になる場面がやってきます。考え方や、生活リズムがまるっきり同じ人はいないでしょうし、それが、リズムや考え方が近いから、仲良くなっている人であればなおさら、微妙な食い違いが蓄積し、フラストレーションが溜まります。

なので、1週間以上のゴルフ旅行は、同行者選びは慎重にすることをお勧めします。特にゴルフのラウンドスピードは、片方が「早く早く」と思っているのに、もう一人が「急かすなよ。折角来たんだから、ゆっくり堪能させてくれ」と思っていたりすると、最悪です。できれば、日本で何度かラウンドして、お互いのリズムやマナー、ラウンドスピードに不満が溜まらない人と同行することです。なかなか、そんな人と1週間以上も同時に休みが取れて旅行できるなどという僥倖には恵まれないでしょうから、同行できる人数が5人とか8人とかの大人数にはならないものです。

また、大人数だとスタートを予約することも大変です。1人や2人だと、他の人との組み合わせでラウンドできる機会がありますが、これが4人以上だと一組抑えなくてはならないので、予約ができないことがあります。それに、折角、スコットランドでゴルフをするのに、「日本人だけ」で固まらず、地元の人や、他の国から来たゴルファーと一緒にラウンドすることもリンクスゴルフの愉しみの一部と割り切った方がお得です。

翌日は、夕方の便までに、1ラウンドの予定です。オールドコースでもう1ラウンドするか、ニューコースやジュビリーコース、キャッスルコースといったセントアンドリュースリンクスが経営するコースに行くか迷いましたが、生憎の小雨模様でしたので、無理をせず、ぶらぶらと南下し「イーライ(Elie)」に行くことにしました。GoogleMap等で見ていただくとわかりますが、これで、以前の旅行とあわせて「Kingdom of Fife」の東岸にあるゴルフコース「キングスバーン」「クレイル」「アンストラザー」「ランディン」「レブン」「イーライ」「キングスホーン」とほぼ制覇することになります。

「王国のゴルフ」で舞台になっている「バーニングブッシュ」は、上記のどれかがモデルとされていますが、小説とまるで同じコースレイアウトのコースはありません。たぶん、上記のコースの中から、印象的なホールをピックアップしているのだと思います。

イーライは、Par3が2つ。後は16ホール全部Par4。というセッティングです。スタートホールこそ、クラブハウスの横を打ちあげていきますが、その後海に打っていき、海沿いに広がるホールが印象的なリンクスです。ラフが深く、風が強い面白いコースでした。

18ホールラウンドして、かかった時間は、1時間45分。81でフィニッシュです。

クラブハウスでシャワーを浴び、プロショップ横のレストランで、エールとサンドイッチの昼食を摂って、スコットランドでのゴルフは終了です。夕方の便で、アイルランドのダブリンへ飛び、帰りに駄賃にアイルランドのリンクスもやっつけて帰ろう。という作戦です。「やっつけてやる」なんて思っていたのですが、「やっつけるどこから、やっつけられ」大変な目に逢うのですが、それは次回。いよいよ、漫遊記は次回で、最終回です。