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夢のゴルフコースへ スコットランド編 伊集院静著 宮本卓写真 小学館文庫刊

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いつまでたっても、M社長からは、取材旅行のオファーがないので、おかしいな。と思っておりましたら、体調を崩され長期入院されたとか。お見舞いに行けずにすみません。実は、私も同時期、トルコに1週間ほど出張しておりました。トルコのゴルフ話は、また近いうちにいたしますが、まずは、ここのところ延々と引っ張っているスコットランド漫遊記を片づけます。

夢のゴルフコースへ スコットランド編 伊集院静著 宮本卓写真 小学館文庫刊

前巻に続き、いいなぁ。伊集院静。(しつこいですね)だって、前巻で取り上げる(7/2)や否や、小学館から「文庫化」(7/6)ですよ。まるで、担当者が、「何!『ゴルフの本棚』に取り上げられた?それは、売れるに違いない。早速、文庫化しよう。」と考えたようなタイミング。そんなことは無い?いくらなんでも、4日じゃ、無理?そりゃそうだ。

さてさて、ゴルフの聖地を巡礼する私と友人の怪しい東洋人二人組ですが、旅もそろそろ終盤戦です。「クルーデンベイ(Cluden bay)」「ロイヤルアバディーン(Royal Aberdeen)」の2コースをラウンドすると、ここまで同行してくれた友人は先に帰国です。本来なら、近郊の「カレン(Cullen)」や、「本当は、ここが一番古くからゴルフが行われていたのではないか」とも言われる「フレーザーバラ(fraserburgh)」のリンクスでも、プレイしたかったのですが、同行の友人の疲労がピークに達しており、妥協して午前中は観光します。妥協と言う割には、この日も、朝から買い物&蒸留所見学。というお楽しみです。まず、エルギンの街でさくっとお買い物。次にマッカラン蒸留所を訪ねると、洗練された作りです。「スコッチには氷入れないんだよね。」と知ったかぶりをしていますと、マッカランの案内ビデオでは、「当社のスコッチは、ストレートで飲むもよし、トワイスアップ(ウィスキーと水を5:5で割って飲む)で飲むもよし、もちろん、オンザロック、ソーダ割り、更には、カクテルにしてもおいしく飲めます。おいしいスコッチはどんな飲み方でもおいしいのです。」とか、言ってます。これまた、一本とられました。売店で、ポケットに入る小さな錫製のフラスコを買いました。こいつをズボンの後ろポケットに入れて、バーディを取ったら、グビッとやる予定です。さて、観光をすっかり満喫し、クルーデンベイへ。

クルーデンベイは、1791年創立。1899年にオールド・トム・モリスを招へいし、現在のコースの原型が作られました。周囲を高台に囲まれた湾まるごとがゴルフコースという立地で、海の向こうは、オランダです。ゴルフの発生は、オランダで氷上のスポーツとしてあった「コルフェン」という説があり、「コルフェン」が、対岸のスコットランドのこの辺りに渡って、リンクスで「ゴルフ」になったと唱える人もいて、このクルーデンベイや、前述のフレーザーバラのどこかが、最古のゴルフ場。と言われる由縁です。湾まるごとが、最古のゴルフコースと言っても、単純な「Going OUT」「Coming IN」の円(ループ)を描くコースルートではなく、8の字を寝かせた∞の形にコースルートをセッティングすることによって、1ホールごとに海からの風向きを微妙に変化させ、毎ホールごと違う風向きでプレーを要求させるというオールド・トム・モリスの傑作です。

畠の中の田舎道を走っていると、突然、高級感あふれるクラブハウスが現れます。クラブハウスは高台にあり、クラブハウスから先は崖、その下にゴルフ場があります。素晴らしいのは、クラブハウスからの眺めで、広々としたラウンジの大きな窓からは、遮るものなくゴルフ場のほぼ全てのホールとその向こうの海が見渡せます。クラブハウスからゴルフ場が見えるコースは数多けれど、ほぼ全てのホールが一望できるクラブハウスは、なかなかありません。更には、その向こうには海。見渡す限りゴルフ場と海だけの贅沢な眺めです。クルーデンベイのクラブハウスからの眺めは、世界一のクラブハウスからの眺望かもしれません。すばらしい眺望と遅めの昼食をクラブハウスで満喫した後、15:30スタートでラウンドです。

前日のモレ―で打ち込まれたことがあったので、プロショップでスタート表を見せてもらいました。前にも、後ろにもスタートする組は無く、私たちの後ろは、16:10のスタートです。これなら安心と、ご機嫌で1番ティーで素振りをしていると、目つきの悪い男が「何時スタートだ?」と話しかけてきます。「3時30分」と言うと、「5分過ぎてるぞ。早くスタートしろ」と言われました。嫌な感じです。時計を見ると彼が言う通り15:35になっていたので、「ごめんね!」と答えて、とっととスタートです。

Cludenbay

クルーデンベイはバック(青)からで6599y、フロント(黄)からだと5850y。Par5がOUTとINにひとつづつ、Par3が、OUTにひとつ、INに3つというセッティングでOUT36IN34のPar70。この日は、中間の白6287yでのラウンドです。1番415yPar4は、パーで好発進。早速、ポケットのフラスコからマッカランをグビリ。バーディだといつまでたっても飲めないので、「パーを獲ったら、一口飲む」というルールにしました。ところが、2番331yPar4で早速ロストして7。3番の274yと短いPar4で5。4番195yPar3でバンカーにぶち込み5。5番Par4でもダボ、6番Par5をパーでやっと2口目、7番の380yPar4も4。グビグビ。8番は257yと短いながらも強烈な打ち上げのPar4で、まるでPar3のようなセッティングです。ここも手堅くパーを拾い、3ホール連続で、グビグビグビッ。調子がでてきました。しかし、次の9番のティーグラウンドが分からず、8番を下りて、次のティーらしきところへ行ってみると、そこは16番のティーグラウンド。どうやら、∞のルートのちょうど真ん中にいたらしい。慌てて8番を登り直すと、更に強烈な上りで、崖の上に出ます。この崖の上が9番。(写真は9番のTeeから振りかえってみたところ)ここから打ちおろしのPar4。452y。上り坂で息があがり、スコッチで目が回ったまま打つと、ボールはあえなく、右の牧場へ直行。羊にぶち当てそうでした。友人も、ここでティーショットを曲げます。打ち直して、フェアウェイまで下りていき、ボールを探します。なかなか見つからず、私はとりあえず自分の4打目をグリーンオン。ふと振り返ると、9番ティーに人影が見えます。まずい!追いつかれた!40分もあったのに!慌てて、友人に前進4打でプレイしてもらい、グリーンに急ぎます。とにかく急げで、3パットでこのホール7。OUTは、パー4、ボギー1、ダブルボギー2、トリプルボギー2で、47。

後ろを見ると、次の組がティーショットを打っています。3人の組で、2人キャディが付いて、5人のパーティの模様。どうやら、1番で話しかけてきたのは、この組のキャディだったようです。まずい。キャディだから、さすがに打ち込みはしてこないだろうが、このままゆっくりプレイして、「ほらみろ、やっぱり日本人は、プレイが遅い」と思われたら溜まらない。たぶん、スタートの時に、「早く行け」と言ったのは、彼は以前にもプレイの遅い日本人に出会っているに違いない。

ここからは、疲れてきた友人を急きたて、慌ててプレイしたので、スコアが残っていません。追いつかれることはありませんでしたが、やっと、もう大丈夫。となったのが、17番。スコアカードには、17番、18番にだけダボとボギーのスコアが書かれています。

ホールアウトしたのは、19:15。3時間40分のラウンドでした。9番のティーの場所を間違えたのが悔やまれます。決して遅いラウンドではありませんが、決して早いラウンドでもありません。

この日は、アバディーンに宿泊。翌朝は、「ロイヤルアバディーン」で8:00スタートです。友人はこの日の14:30発の便で帰国予定。最後のラウンドです。

結論から言いますと、今回の旅が終わった後で「もし、なれるとしたら、今回旅したコースの中で、どこのコースのメンバーになりたいか?」という設問に、友人も私も、セントアンドリュースオールドコースやカーヌスティ、ロイヤルドーノックを抑えて、1番にあげたのが、この「ロイヤルアバディーン」でした。

RoyalAberdeen

ロイヤルアバディーンは、1780年創設。シルバーのプレートにも燦然と書かれています。世界で6番目に古いゴルフ倶楽部です。今回ラウンドした「バルゴーニー(Balgownie)コース」と女性やジュニア向けの「シルバーバーン(Silverburn)コース」があります。メンテナンス、グリーンのスピード、ラウンドしているメンバーの数と質。コースの難しさ。いずれも最高でした。ハンディキャップ証明書の提示を求められたのは、オールドコースとここだけでしたし、スタート前にトロリーの準備をしていると、メンバーが「どこから来た?」「日本から」「俺も、昔、神戸に住んでた。」「神戸か!神戸牛とアンガスステーキ(アバディーン周辺の肉牛でイギリスで有名)は、どっちが旨い?」「内緒だけど、神戸牛だ。広野ではプレーしたことがあるか?」「1度だけある。」「俺も一度プレーしたけど、広野はいいな。」「神戸なら、六甲のオールドコースはプレイしたか?」「何度もプレーしたよ。あそこは面白いな。ところで、スタートは何時だ?」「8:00」「賢明な判断だ。ここは、午後になると風が強くなるから、難しい。今日は、俺は別な人間と回るから一緒にラウンドできないけど、今度、一緒に午後ラウンドしようぜ。」と気さくに話しかけてきました。

日本のゴルフ場で、見知らぬビジター(特に外国人)をこんな風に迎えることができるでしょうか?私も、もし、そんな機会があったら、きちんと接したいと思います。

RoyalAberdeen No1

さて、ラウンドですが、各ホールをご紹介しようと思ったら、スコアカードがどこかにいってしまって、ありません。たぶん、90〜100の間でしたが、どのホールも、深いラフ。すぐそばの海からの風。ふかふかの砂が一杯のポットバンカー。硬くて速いグリーン。クラブハウスのすぐ前から、海へ向かって軽く打ちおろして行く1番Par4(写真参照)からはじまり、街を右手に望みながら、クラブハウスへ打ちながら戻る18番まで。OUTは、Par5が2つ、Par3が2つ。INは、Par5が1つ、Par3が2つ。のPar71(6861y)です。

私も、そこそこ調子よくラウンドしていた割に、途中、ガードバンカーからグリーンにちょんと載せるバンカーショットをしたら、ボールがそのままごろごろ転がって、ピンを通り過ぎ、向こう側のバンカーに転がりこみ、今度は、その向こう側のバンカーから打ったボールが、また、バンカーに戻ってくる。という狐につままれたような経験をしました。結局、バンカーから目の前のグリーンに出さずに、横を向いて、手前の花道に戻す。という選択を強いられました。気が付けば、かなりの傾斜がグリーンにあったわけですが、これが、注意してみないと傾斜がきついように見えない。という上手い作りだったわけです。

友人は、「スコットランド最後のラウンド」と意気込んで、キャディを雇っての挑戦でしたが、途中のヘビーラフで、打ったボールが更にラフの中に潜り込み、キャディとふたり、草をかき分けて、やっとボールを見つけ、さらに、そのボールをウェッジで思いっきり、打つと勢いよく飛び出したボールは、1メートルほど前のブッシュに再び飛び込み、今度は私を含め3人で草をかき分けましたが、1メートル先のボールが見つからない。というリンクスの洗礼をどっぷりと浴び、撃沈。結局、彼は今回の8.5ラウンドで、ボール4ダースを失くすという経験をし、亡霊のような青い顔で「ボールが失くならないコースでプレイしたい」とうなされるようにつぶやいて、日本へ帰って行きました。しかたありませんね。なにしろ、厳しいラフにボール探しするゴルファーが多く、世界で初めて「ロストボール捜索は5分以内」をルール化したのは、ここロイヤルアバディーンなのです。

それでも、今回は、1ラウンド3時間。うねっているものの基本的に平らなコースで、無理なく作られているので、グリーンと次のティーまでの間隔が近く、楽にラウンドできたこともありますが、キャディについてくれた大学生が、実はこのクラブのメンバーで、的確にかつ、さりげなく我々のゴルフをコントロールしてくれていたおかげでもあります。今も、スコアカードの真ん中に「PLEASE AVOID SLOW PLAY AT ALL TIMES」(常にスロープレイは避けよう)と赤字で書かれているぐらいです。父親も従兄弟もメンバーだ。という彼には、ロイヤルアバディーンの精神が脈々と受け継がれているのでしょう。

おかげで、ラウンド終了後、友人を空港に送る前に、ゆっくりと熱いシャワーを浴びて、シックなラウンジで、サンドイッチとエールでのんびりと昼食を摂ることができました。

すると、朝とは違うメンバーが私たちの席にやってきて、

「おごるから、好きな酒を注文してくれ」「どうしたの?」(遠くから来た日本人をもてなしてくれるのかな?)「ホールインワンをやったんだ。」

彼は、僕らと握手すると、ホールインワンのお祝いに、見知らぬビジターの日本人にも、お酒をおごってくれました。

彼がご馳走してくれた2杯めのエールを飲みながら、しみじみと「こんなコースのメンバーになりたい。」と思ったのでした。(第25巻へ続く)